沖縄県出身のアーティストである山城知佳子は、現代の社会問題や自然、そして第二次世界大戦という、故郷沖縄の深い歴史的な傷跡をもとに、世界中の抑圧された人々の心に希望を与えるような作品を制作している。

Chikako Yamashiro, Mud man, 2016. In cooperation with Aichi Triennale, 2016. © Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates.

山城が天職を得たと言えるのは、2008年、思いがけず沖縄の新聞社よりアーティストとして、「沖縄戦を知らない若い世代が、いかにその記憶を継承することができるか」という題材の作品制作を依頼された時のことだ。通常、新聞社が写真家やジャーナリストに作品制作を依頼する場合、写真家やジャーナリストらは、これまでの映像や写真の記録からインスピレーションを得ることが多い。

しかし山城は、歴史的な記録は非常に重要ではあるものの、芸術家の想像力には欠けていると感じている。 このことをきっかけに、山城は戦争の悲惨な経験を後世に伝えるアーカイブ映像のあり方に疑問を投げかけた。「映画を見たり、過去の写真を見たりするだけで、本当に沖縄戦を想像することができるだろうか?」と山城は問いかける。    

インスピレーションを様々な場所に求める中で、山城は、年々減少する戦争体験者から聞いた戦争の話を思い出した。そしてしばらく時間が経過し、彼女自身の中から戦争の話を忠実に語るナレーターのような男性の声が聞こえてきた。山城はその時のことを、「男性のその声が強くなりすぎて、全身を支配してしまうのではないかと思った」と語った。

Chikako Yamashiro, Mud man, 2016. In cooperation with Aichi Triennale, 2016. © Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates.

その声は山城に多大な影響を与えた。その影響の大きさは、彼女の代表的なパフォーマンス作品『あなたの声は私の喉を通った』において、その声がインスピレーションとなったほどだ。この作品は、シンプルでありながら力強い美学の中に、痛快さを見出すものである。真っ白な壁に背を向けて立っている山城の顔に、年配の男性の顔が映し出されている。同時に、彼の声を録音したものが戦争体験を語り、山城は唇の動きと、彼の声をシンクロさせながら、同じ恐ろしい話を無言で語っている。この作品『あなたの声は私の喉を通った』からは、真実に近づくための想像力の強さに対する彼女の信念を感じ取ることができる。

『あなたの声は私の喉を通った』、『沈んだ声』、『肉屋の女』など、山城は長年にわたって、抑圧された感情や記憶を、見る人の意識に届くような作品制作を続けており、彼女の最新作『土の人』ではそれが表現されている。

『土の人』の冒頭では、この映画の語り部であると思われる質素な服装の男性が、日本語、韓国語、沖縄の方言を織り交ぜた奇妙な言葉で語りかけることにより、この映像の多文化との関連性を強調している。

Chikako Yamashiro, Mud man, 2016. In cooperation with Aichi Triennale, 2016. © Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates.

そしてここで話は一気に展開する。善良な泥まみれの人々の顔に、通りすがりの鳥の糞まみれの種が叩きつけられたことがきかっけとなり、男性に一連のフラッシュバックが起こる。そして泥まみれの人々は、激動の過去の記憶を再体験し、暗闇から悟りへ、不毛の地から百合の花が咲き乱れる世界での実りへと、形而上的な旅を始めるのである。ここには、生命の循環が見られます。山城は、「自分がどこから来たのかを知らないと、方向性が定まらない」と述べる。

映像の終盤では、平和的抗議活動への頌歌として、辺野古の穏やかな海が観る者を迎えてくれる。なぜなら、沖縄県民が国際社会の支援を受けながら、辺野古の米軍新基地建設を阻止しようと奮闘している現実があるからだ。

辺野古で行われている新米軍基地建設に反対する抗議デモにみられるお祭りのような平和的な要素から、琉球王国(日本に併合される前の沖縄)時代に、沖縄の王族が外国からの使者を歌と踊りで歓迎し、友好関係を築いたことに思いを馳せるのは当然だろう。しかし、山城にとって歌と踊りは庶民による表現であり、現代に重要な目的を果たすものである。山城は、「私たちの伝統的な歌は、心を一つにする武器だ」と語る。

また山城は、この人々の団結の精神を自身の作品にも生かしている。過去の人々の声を思い起こしながら、山城は過去の記憶の中を歩き、真実を求め、より良い世界を実現するための実存的な闘いを続ける大衆を励まし続けている。

Chikako Yamashiro, Mud man, 2016. In cooperation with Aichi Triennale, 2016. © Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates.
Posted 
2021-11-21
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