石川竜一は、沖縄県出身の写真家です。彼の作品は、社会の片隅で生きる人々の生活に光を当てることを目的としています。今回の対談では、沖縄県立美術館で学芸員としてデビューしたばかりの石川が、復帰後の沖縄におけるアート制作のあり方について語ってくれました。

Cotonoha: 4年前にお話を伺ったときと比べて、現在の石川のスタイルはどのように変化しましたか?

石川竜一 :そうですね、当時はちょうどフィルムを使うのをやめた頃ですかね。自分の考え方が少し変わってきたので、デジタルカメラを使ってみようと思い立った時期でした。それまでの私の写真は内省的なもので、そのアプローチは自分の生まれ持った性質を表現しているに過ぎず、その結果に満足していませんでした。そんなとき、写真家の新垣眞さんと勇崎哲史さんに出会いました。彼らとの出会いによって、私はさまざまな人とコミュニケーションをとるようになり、新しいアイデアを写真に取り入れることができるようになりました。そうして、私の作品は少しずつ外に向かっていくようになりました。これが私のスタイルの最大の変化だと思います。

Cotonoha: 現在はグループ展のキュレーションをされていますよね。そのことについて教えてください。

石川竜一:NHKが主催する特別展で、沖縄が米軍統治から日本本土に復帰を果たして45年が経ったことをテーマにしています。他の展覧会でも本土復帰以降の沖縄の歴史を辿るというテーマの展示会はあったので、当初は何か違うことをしたいと思っていました。今の沖縄の雰囲気を表現したかったので、本土復帰や米軍基地などの問題は関係ないと思っていました。いろいろな写真家さんたちから写真を集めてみると、政治的な問題を扱っているものがほとんだと分かりました。沖縄の写真は政治的なものであり、この展覧会を企画する前に想像していたものとは全く異なる現実がそこにはありました。

Cotonoha: キュレーターとしてのアプローチについてお聞かせください。

石川竜一: キュレーターとしての私のアプローチは、私の写真の撮り方に関係があります。私にとって写真は、自分でコントロールできるものではありません。写真というのは瞬間的なものです。また、写真というのは即興的なものです。プロジェクトを始めるときに、「これはこうで」「これはこうだ」なんてことは言いません。フィルムを使っていた頃の私の作品は、よりコンセプチュアルなものでしたが、今の私の写真は、1つのコンセプトよりも、1人の人間が想像できるものよりも、もっと多くのものを伝えることができます。

Cotonoha: 今回の作品は、沖縄の米軍基地問題に関連したものですか?

石川竜一:私の写真は、地元民から見れば、日常生活に密着したものに見えます。しかし、別の目に映る時、きっと政治的な意味合いを持っているようにも見えるでしょう。

Cotonoha: 今回の展覧会では何を伝えたいと考えていますか?

石川竜一:「共感」。つまり、今の若いアーティストたちを繋ぎ合わせる「相互理解」の気持ちです。実はこの姿勢というのは、アーティスト全員に共通するものですが、一昔前のアーティストにはあまり見られませんでした。一昔前のアーティストは、主に対決することで作品を作っていました。それが彼らのコミュニケーション手法でしたが、今はそのようなコミュニケーションはほとんど見られません。また、写真活動という意味でも、目の前で起こる様々な出来事を認識し、それを写真に収めるためには、共感は必要不可欠です。

「共感」を現代の写真やコミュニケーションに活かし、沖縄の社会をつなぐツールとして活用したい、それが今回の展覧会のディレクションに対するビジョンです。

Cotonoha: 戦後の日本本土からの影響は、沖縄のアーティストの創作活動にどのような影響を与えてきたのでしょうか?

石川竜一: 沖縄と日本の間には文化的な衝突があります。沖縄の社会全体がこの衝突に巻き込まれていますし、沖縄のアーティストも同様です。しかし、アーティストたちは世代毎に異なる対処法をとっているようです。

数年前、現在40代のアーティストたちは、60代のアーティストたちが政治的な問題に取り組むアプローチから距離を置き、異なるものを表現しようとしていました。その世代のアーティストは、日本や他国からの様々な影響を作品に取り入れることで、沖縄の政治的な経験以上のものを自由に表現していました。同じように、現在20代、30代のアーティストは、40代のアーティストのアプローチを否定しています。 彼らももまた、60歳前後のアーティストと同様に、沖縄の政治的環境からインスピレーションを得ています。

また、若いアーティストは、沖縄戦や沖縄の日本本土返還についてほとんど知りません。現在の60代のアーティストとは対照的に、若いアーティストは統一された歴史の物語を共有していません。ですから、若いアーティストは、自分のことを社会の中の個人だと感じていますが、一方で60代のアーティストは自分のことを社会の一員であると捉えています。このような若いアーティストの個別化によって、彼らは自分の直感を生かして、政治的環境に対するさまざまな視点を表現する作品を作ることができるのです。

このように、アーティストのアプローチは徐々に変化しています。しかしながら、彼らが取り組む題材は、世代ごとに政治的なものと非政治的なものとの間を循環しているようです。

Posted 
2021-11-22
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